「古物市場主(こぶついちばぬし)」と言われても、ピンとくる人はあまりいないと思います。
知っている人は、古物商と関わりがあったり、古物商の知識を持っている人ではないでしょうか。
というのも、古物市場主は古物商がお客様になるからです。古物市場主は、古物商にとって最強の仕入れ先、古物市場に深くかかわる仕事をしています。
ここではそんな古物市場主について、ご紹介します。
どんな仕事をしているのか、必要な資格は何かなど、古物商との違いが分かります。
古物市場主って何?
古物市場主(こぶついちばぬし)とは、古物市場を経営する人や職業のことです。文字通りですね…
「2号営業」とも呼ばれますが、法令的には古物市場主で合ってます。
古物市場を開催して、古物商の仕入れや在庫処分などをサポートします。古物商にとってなくてはならない場所を運営する、重要な職業です。
フランチャイズの買取業では、フランチャイズ本部が古物市場主になって、古物市場を開くこともありますよ。
そもそも古物市場って何?
古物市場(こぶついちば)とは、古物商限定の競り会場のことです。魚市場の中古品バージョンと考えると、イメージしやすいかもしれません。
全国で1000以上の会場がありますが、毎日開催されているとは限りませんし、取り扱う品目が限定されている場合もあります。そのため、わざわざ県外から足を運んでくる古物商も多いです。
古物市場では、リサイクルショップのオーナーや買取業のバイヤーなど、さまざまな古物商が集まって、商品をオークションにかけ、競り落とします。
売る側、買う側の両方にメリットがあって、売る側は不良在庫を処分できます。買う側は、一般的な価格より安い金額で仕入れができるメリットがあります。
一般公開は基本的に行われていませんが、古物商にとっては重要な市場です。
「古物」を取り扱うので、開催するためには警察署や公安委員会の許可が必要になります。参加者も古物商許可証が必要です。市場によっては他にも条件を要求されたり、参加者からの紹介が必要だったりします。
こういった条件を設けるのが、古物市場主の役割です。
古物市場主ってどんな仕事?
古物市場主の仕事内容は、古物市場の管理・運営です。主に受付やオークションの司会などを行います。入場するための要件やルールを考えたり、古物商同士の間を取り持ったりするのも、仕事のひとつです。盗品や偽物が紛れ込んでいないか、注意監督する義務もあります。市場全体を見て動き回る必要があるんですね。
古物市場主が古物の取引に参加することはありません。
オークションに参加したり、商品を出品・落札することもありません。
古物市場主は、入場料や手数料から利益を得ています。
そのため、いかに古物商が利用しやすい市場運営ができるかが大切になります。
古物商が集まりやすいタイミング・場所で開催したり、多く仕入れた人向けに配達を申し込めるサービスなど、業者ならではの声に応えられるようにしたいですね。
古物市場主になるのは簡単?
残念ながら、古物市場主はリユース業界の経験が少ない人にとってはハードルが高い職業です。
古物市場主の申請手続きは、古物商許可証の申請手続きと大体同じです。
古物商許可証の申請と違う点は、市場ごとに規約を用意したり、参集者の古物商許可証を集めたりしないといけないところです。
古物商のように一般的ではなく、情報が集まりにくいのも、手続きの難しさに拍車をかけています。
古物市場主の許可を取得しても、専門的なスキルやコミュニケーション能力が求められます。古物市場を円滑に運営するため、古物商とやり取りをする場面は多くあります。出品物の真贋を見分ける審美眼も必要です。
未経験者がいきなり始めるには、かなりの準備が必要です。
2号営業とも呼ばれる古物市場主。その理由は?
古物市場主は「2号営業」といわれています。
この由来は、古物を取り扱うための法律「古物営業法」です。
古物営業法 第二条
2 この法律において「古物営業」とは、次に掲げる営業をいう。
一 古物を売買し、若しくは交換し、又は委託を受けて売買し、若しくは交換する営業であつて、古物を売却すること又は自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けることのみを行うもの以外のもの二 古物市場(古物商間の古物の売買又は交換のための市場をいう。以下同じ。)を経営する営業
三 古物の売買をしようとする者のあつせんを競りの方法(政令で定める電子情報処理組織を使用する競りの方法その他の政令で定めるものに限る。)により行う営業(前号に掲げるものを除く。以下「古物競りあつせん業」という。)
引用元:古物営業法
2番目に書かれているのが、「古物市場主」です。
二条二項の2号に書かれているから、「2号営業」と呼ばれるようになったそうです。
ちなみに、中古品の売買をする古物商は「1号営業」に当てはまります。
3号に書かれている古物競りあっせん業は、いわゆるネットオークション業者を指します。
市場を営む古物市場主と違い、インターネット上のオークションを運営しています。
古物市場主と古物商の違い
古物市場主と古物商は、似ているようで全く違う仕事です。
一番大きな違いは、古物の売買です。古物市場主は古物の売買は行いません。
両者の関係は魚市場などで例えられますが、「ライブ運営とライブ参加者」でもイメージしやすいかもしれません。
古物市場主がライブ運営、古物商がライブ参加者ですね。
さらに違いを詳しく解説しますので、参考にしてください。
古物の取引はしない
古物市場主は古物の取引を行いません。出品を募ることはあっても、古物を仕入れることはありません。
参加者に直接販売することもありません。顔なじみの参加者に「今日はこんな商品が目玉だよ」「お探しの商品が出品されるよ」とすすめることはあると思いますが…
ライブでも、運営スタッフが観客として客席にいるなんてこと、ほぼありませんよね。
古物市場主の仕事は、古物市場を無事に運営することです。
オークションの司会進行の他にも、いざこざが発生した古物商の間を取り持ったり、盗品や偽物が出品されないように目を光らせたり…と、やることはたくさんあります。
地域のイベントや学園祭などの運営が得意な人に、向いているかもしれません。
取引相手は主に古物商
古物市場主にとっての顧客は、古物商です。
古物市場は一般人が入場できません。古物商許可証がない人は本物の古物商でも入れないんです。さらに古物市場では、法律によって古物商同士でない取引を禁止しています。けっこう厳しく制限されているので、古物商許可証を持たない一般人と取引をすることはありません。
主な収入源は、古物商から支払われる入場料や手数料です。会員制の古物市場なら、年会費やメンバー加盟の入会料からも収入があります。
手数料は、「売り歩」「買い歩」とも呼ばれていて、売った(買った)ときの金額を基準に決定します。例えば「売れた金額の3%」「買った金額の10%」といった感じです。この割合は古物市場主が決めることができます。
古物市場の運営を通して古物商同士の取引をサポートすることで、利益を得ているビジネスなんですね。
申請手続きにも違いが
古物商の許可申請には、営業所が必要です。営業所の住所を管轄する警察署で申請手続きを行うので、最初に決めなければいけません。
古物市場主の場合は、古物市場を開催する場所がそれにあたります。賃貸物件の場合は、本当に市場を開く許可を得ているのかを証明する書類を提出します。所有者からもらった使用承諾書や賃貸契約書のコピーなどですね。自宅や自社ビルでも、土地・建物の登記事項証明書や固定資産証明書が必要になる場合があります。
必要になる書類にも違いがあります。
古物市場の営業許可を申請する際、追加で以下の添付書類が必要になります。
古物市場規約
市場ごとに規約を作成します。以下の内容は必ず定めなければいけません。
- 市場が開催される場所(特定できるように記載する)
- 取り扱う古物の品目
- 市場の開始時間、終了時間
- 取引方法、手数料の支払い比率など
- 参集資格、入会方法
この他にも、盗品や偽物などの申告義務の励行などの記載が求められる場合があります。
古物市場の参集者名簿
古物市場に出入りする古物商の名簿です。業者名の他にも、古物許可番号や取得した公安委員会名が記載されている必要があります。
参集者は必ず、行商する許可を得た古物商でなければいけません。これは許可証で確認できます。行商をしない選択をすると、申請した営業所以外で取引できません。つまり、古物市場に参加できないんです。
古物市場に出入りできない状態では参集者と呼べませんので、「行商する」で許可を取った人で名簿を作成するようにしましょう。
参集者名簿に載っている古物商の古物許可証のコピー
古物許可証のコピーは、名簿に載っている業者全員分必要です。
名簿に載っている古物商が、本当に「行商する」で許可を取っていることを証明します。
古物商許可証では、古物市場主にはなれない
古物市場主の営業許可を申請する方が、古物商のときより大変です。
「古物商許可証だけあれば、古物市場主になってもいいんじゃない…?」
と、感じる人もいるかもしれません。
残念ながら、古物商許可証を持っている人が、古物市場を開くことはできません。
全く別の職種なので、兼用できないんですね。
古物市場を開きたいときは、新たに営業許可を申請する必要があります。
申請する際、個人か法人かを選べますが、そちらも兼用できません。個人で許可証を持っているからといって、法人名で開催することはできないんですね。また、許可証を持っている社員がいる場合でも同じです。
プロを相手にするビジネスですので、ズルはすぐにバレますし、客足に大きく影響します。
営業許可はしっかり手順に従って申請しましょう!
古物市場主になるための4ステップ
最後に、古物市場主の許可申請の手順をご紹介します。
基本的な流れは古物商の場合と一緒です。
実は提出する申請書も、同じものを使用しています。「別記様式第1号その1(ア)」にある、「許可の種類」で「2.古物市場主」を選ぶことで、古物市場の申請になるんです。
申請書類は全部で5枚ありますが、個人で申請する場合は最低3枚、インターネットを使用しない場合は2枚で済みます。警察署によっては、インターネットの届け出は不要としているところもあるみたいです。
大きな違いは、添付書類を集めるときです。
用意する添付書類は、警察署によって少し変わります。様式を指定されている場合もあるので、事前に確認しておくことをおすすめします。
1:古物市場にする場所を決定する
書類を作る前に、市場を開く場所を取得します。
申請手続きは、営業所の住所を管轄している警察署で行います。市場の場所が決まらないと、次のステップに進めません。
営業活動する地区が決まっているなら、そこを管轄する警察署の担当者に問い合わせてみるのもアリです。
その際には、事前に電話をして予約を取っておくことをおすすめします。担当者と確実にやり取りできますし、ゆとりをもって対応してもらえます。
同時に、古物市場ごとに「管理者」を用意しておきます。
欠格事由に該当しなければ誰でもなれますが、業務を管理・監督・指導ができる人を選任しなければいけません。毎日出勤できない人や、取引の知識がない人は選べません。
管理者は、申請者が兼任することも可能です。
2:必要な書類を集める
営業所が決まったら、申請に必要な書類をそろえます。
警察署によって、必要な書類や様式が変わるので、一度警察署などで確認をしておくと安心です。
必要な書類は、「申請書類」と「添付書類」の2種類です。
それぞれ詳しく説明します。
申請書類
警察署からもらう許可申請書です。インターネットでダウンロードもできます。
5枚ありますが、該当する書類だけ記入します。名称や住所などは、住民票や契約書に書かれている通りに書き写してください。
日付は空欄にしておいて、提出するタイミングで記入するとミスが少なく済みます。
添付書類
警察署からもらう書類と、役所や物件の管理者からもらう書類を提出します。添付書類は、古物商の場合に追加で以下の書類が必要になります。
- 古物市場規約
- 古物市場の参集者名簿
- 参集者の古物許可証のコピー
3:市場の住所を管轄する警察署に申請
書類がそろったら、警察署に提出します。
提出する際には、担当者に直接渡します。無駄な労力をかけないためにも、予約を取ってから行くことをおすすめします。
申請の際には、以下の持ち物も用意してください。
- 申請に必要な書類
- 申請手数料(19,000円)
- 筆記用具
- 訂正印
- 身分証
また、申請の際に営業内容について質問される場合があります。
答えられるよう、準備をしておきましょう。
4:申請が通るまで待つ
古物市場主の審査期間は、おおよそ50日間です。
古物商の場合は40日なので、結構長めです。審査結果が出る前に営業してしまうと、無許可営業になってしまうので注意してくださいね。
審査が終わって許可証が手に入ったら、標識を作成します。ネットの製作業者に注文すれば、1000円台で作ってもらえますよ。
規格が決まっているので、注文の際は間違えないようにしてくださいね。
同時に古物台帳も用意します。こちらもネットで購入できますが、様式さえ守っていれば、ノートに手書きで作成しても構いません。
古物台帳は市場ごとに常備して、取引の記録を付けます。法律で定められた義務で、おこたると罰則があります。
まとめ
古物市場主は、古物商にとってかかせない古物市場を運営・管理するビジネスです。
古物に関する知識や審美眼の他にも、古物商の間を取り持つコミュニケーション能力が求められます。
申請手続きの流れは、古物商の場合と大体同じです。
必要な書類が多いので、準備期間は余裕をもって計画することをおすすめします。